亀翁山の亀

 三隈川の水中に緑がひときわ繁る日限山は、普通、亀山公園と呼ばれ、市民のいこいの
公園となっている。
 むかし、この山頂に薬師様をまつつていた。
 ある晩、どこからともなく白髪の翁が現れて、灯明をともして一心に拝んでいた。次の
日も、又次の日も、熱心に拝んでいた。雨と風の強い日も一日も欠かしません。
 堂守が不思議に思っているうちに、十六日が過ぎた。
 十七日の夜、堂守が、「熱心にお参りなさるが、どちらの方でしょうか。余程のお願い事
とおみうけしましたが」とたずねると、その翁は「私はずっと長い間この渕に住んでいる
亀です。薬師様に参り、仏の慈悲の恩をうけ、畜生道の苦しみを和らげたい。修行を積ん
で、成仏したいと思い毎夜もうでさせてもらいました。」翁は堂守に深々と頭を下げると、
階段を下りていった。
 強い風が、ザザーと樫の木をゆさぶると、小さな固い実がバラバラと落ち、もうそこに
は翁の姿はみえなかった。
 堂守は次の夜、薬師様の前で翁を待ったが、その夜以来現れなかった。それからこの丘
を亀翁山と呼ぶようになった。
 昔、この渕にはたくさんの亀がいて、雪のように白い亀もみかけたとも伝えられている。

出典
「日田地方の昔ばなし」(NTT日田電報電話局編集委員会)