鬼塚

 日田の三芳の刃連町に、鬼塚と呼ばれる小高い丘がある。
 昔、玖珠川の流れは、会所宮の下を流れていたが、度々の洪水や、長い年月の間に、少
しずつ流れを変え、今の三隈川の流れに落ちついた。
 その後、昔、川だった所を、人々は少しずつ川石を取りのぞいて田圃を造り、その時集
めた川石を積み上げ、やがて今のような塚の形が出来上った。また、ここでは、鬼火を焚
いたともいわれている。
 ところで鬼塚には面白い話が伝わっている。
 昔、鬼塚には、とても大きな鬼が住んでいた。
 ある日のこと、どうしたわけか突然鬼は、一歩、二歩、三歩と大股で三隈川を飛び越え
高瀬の方の崖を爪あとたててよじ登った。
 そして、自分が今来た所を振り返り、なぜか、今もなおじっと睨みをきかせているとい
う。
 大鬼が、刃連の塚から三歩で渡ったという第一歩は下井手の「うえがた(上方)」という
所で、二歩目は「まつぶし(松伏)」の三叉路あたり、三歩目は高瀬の「とっぎょう(徳行)」、
という所だったという。
 近くの岩に鬼がよじ登った爪あとらしいものが残っており、そこを人々は『鬼ケ城』と
いい、今もいい伝えている。
 なお、この鬼塚は、真言宗明王寺の分寺でもあり、八十をこえるお婆さんがたったひと
りで、お堂をお守りしている。

武石珠峯氏著『日田の民話と伝説』
その他三方地区在住の古老による口伝より

出典
「日田地方の昔ばなし」(NTT日田電報電話局編集委員会